戦前ベストセラー読書会

主に昭和初期のベストセラーを課題図書として読書会を開催し、活動報告をします。

《第2回読書会報告》佐藤紅緑『ああ玉杯に花うけて』昭和3年

11月15日 第2回読書会を開催しました。

課題図書:佐藤紅緑『ああ玉杯に花うけて』

 

今回の扱った『ああ玉杯に花うけて』は、昭和2年から『少年倶楽部』という雑誌に連載された、少年向けの小説です。この作品の連載によって『少年倶楽部』は爆発的な売り上げ増加を見せたという、大人気作品であり、超目玉作品でした。

 

あらすじ

 舞台は浦和。主人公は青木千三(チビ公)という、幼くして父親を亡くしたことによる貧困によって中学進学を断念し、伯父の豆腐屋を手伝いながら生活する少年です。ことあるごとに彼に暴力をふるう阪井巌(生蕃)や、それを救う優等生柳光一など、浦和中学に通う元同級生たちとの間に繰り広げられる事件がえがかれます。千三は浦和で私塾を開いている黙々先生に師事し、黙々塾出身の一高生の存在に影響を受け、一度は諦めた学問の道に刻苦勉励し、立身出世の道を歩むのでした。

 

レジュメと話題となったポイント

読書会では以下のレジュメをもとに、話題となったポイントを箇条書きで紹介します。

 

 

 

drive.google.com

 

drive.google.com

 

主に議論した話題を箇条書きで紹介します。

 

・学歴エリート主義が色濃く、そのガス抜き効果として野球の場面がある

・ジャンプ漫画に見られる「友情・努力・勝利」の構造がある→だから面白い

・『少年倶楽部』編集者、加藤謙一の力が作品から感じられる

・大衆的な価値観を蔑視していること(特に映画蔑視)が気になる

 

少年倶楽部』に連載された作品であるだけに、現在の少年漫画に繋がるような、少年たちを引き付ける構造を持っていることが、参加者と意見を交わす中で明らかになってきたように思います。当時少年たちから人気であったのも納得です。

その一方で、当時大衆的に人気のあった映画を蔑視するような価値観もあることはやはり気になるポイントとして、最後まで話題となっていました。

 

参加者からのコメント

 

 最後に、参加してくださった本ノ猪さんからの感想コメントを紹介します。

 

 

・本ノ猪さん(Twitter@honnoinosisi555

 

前回の鶴見祐輔『母』の会に引き続き、参加させていただきました。

今回の課題図書・佐藤紅緑『ああ玉杯に花うけて』は、まず何よりも読み物として面白く、加えて近代日本の学校風土や文化の一端に触れることもできる、大変面白い一冊でした。  恥ずかしながら、著者の佐藤紅緑のことは、名前を目にしたことがあるくらいでほとんど知らず、ましてやその著作については無知でした。そのため、今回の読書会は学びや発見が多くあり、刺激的でした。  物語の中に登場する野球の練習や試合のシーン。私はそれを、物語を盛り上げるための要素くらいにしか考えられていませんでした。しかし、主催者のかんさんのレジュメを通して、学業と対比できるものとしての「スポーツ」の観点から見ることによって、当時の「野球」像に意識を向けることができました。  物語の中で否定的に取り上げられている「映画」については、読書会の参加者の間で話が盛り上がったことが印象に残っています。当時はすでに映画雑誌が刊行されていることを考えても、映画に対する評価は生まれた環境や所属先によって、大分異なっていたことが分かり、大変面白かったです。

次回は、課題図書を奥野他見男『学士様なら娘をやろか』とし、読書会が開催されるようですが、ぜひ参加させていただければと思います。

 

 

本ノ猪さん、ありがとうございました。

 

感想で触れてくださいましたが、

次回読書会は奥野他見男『学士様なら娘をやろか』を課題図書として、読書会を開催予定です。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。